「手に職オンナ」対談!

   

「手に職オンナ」が本音を語る!

栗山莉沙(ケーキデコレーター/ Lisa’s Cake Market代表)×西谷裕子(ペディリスト/ 株式会社ペディキュール代表)

第1回「無いものは自分でつくる。居場所も、職業も。」【前篇】

2019年3月10日

Lisa’s Cake Market代表の栗山莉沙と株式会社ペディキュール代表西谷裕子

ドイツ式フットケアの第一人者として個人サロンからキャリアをスタートし20年走ってきた西谷裕子が「ぜひこの人に話を聞きたい!」という相手と語るスペシャル対談。手に職オンナ同士のアツいトークは、皆さんも共鳴する部分がたくさんあるかもしれません。記念すべき初回ゲストは、独自のセンスとアート感覚あふれるケーキデコレーションで、個人のみならず企業からのオーダーも相次いでいる「Lisa’s Cake Market」の栗山莉沙さん。まずは前篇です!

写真左:栗山莉沙(ケーキデコレーター) 写真右:西谷裕子(ペディキュール代表)

パティシエにだけは、なりたくなかった。

西谷
栗山さんの職業って独特だと思うんですけど、どうやってそのお仕事についたんですか?
栗山
新たに開拓したジャンル、と私は思っています。
10年くらい前には、クリームをがっつり絞るカップケーキやアイシングクッキーみたいなものはあまりなくて、デコレーションといえばバブリーな時代のウエディングケーキくらい。日本は、例えば鎧塚さんがつくるような、フランスやウイーン寄りのキレイなものが主流。そこにアメリカ人が誕生日に出すようなスパイダーマンのケーキやデコレーションしたカップケーキが入ってきて。

高校時代は芸大目指して絵ばかり描いてました。どんな形にも変化できる絵というものにすごく憧れを持ってました。
実は母がパティシエで、私が生まれる前からケーキを作っている職人だったんです。しんどいのをずっと見てきてるから、パティシエになんてなりたくなかった(笑)もちろん素敵な仕事だとは思うけど、私はあまりそこに美的要素を感じられなくて…。
ある時、母の書斎で一冊の本を見つけました。シュガークラフトという伝統技術をイギリスから日本に入れた第一人者・橋上(とき代)先生が書いた本。砂糖を使ってお花をつくる技や絞りに感動して「これは絵じゃないか…私はこれで絵を描きたい!」と。で、学べる場所はどこだ!?と。
両親は私が芸大に行きたいというので専門学校に通わせてくれてたから「こっちがやりたい」って言えなかった。でも受験のために油絵を描くことは既に興味がなくなっていて…センター試験は行ったんです。でも絵を描く実技テストの日、とんずらして行かなかった。
それは親にバレてすごく怒られて。なぜ受けなかったんだと言われたタイミングで「実は私、このシュガークラフトがやりたくてイギリスに行きたいの」と(笑)そしたら結局「じゃあ1年間、イギリスにいくためのお金も貯めて、イギリスでの宿も自分でとって、全部自分でやれ」と。
Lisa’s Cake Market代表の栗山莉沙と株式会社ペディキュール代表西谷裕子の対談

「気に入らないもの」から「面白いもの」を見つけるまで。

栗山
私はバンタンという製菓学校で講師をしていたんですけど、生徒たちにも「そういう職業にはどうやってなるのか」とよく聞かれますね。
パティシエもそうだけど、webデザイナーやライターにしても「特化するもの」があると思うんですよ。ケーキでいうと、チョコレート細工に強い、パイを折るのが得意、とか。私の場合は「ケーキをデザインし、色んな素材を使ってアート的に表現する」ということに特化してる。だから君たちも「パティシエになる」という夢じゃ大きすぎる、専門学校の広く浅く教える授業の中で「絶対に負けない」というものを見つけていかないと生き残れない世界ですよ、ということを必ず言いますね。
…でも実はこういうふうに「教える人」が出てきてしまったっていうこと自体、いずれ飽和するってことだし、既に新しくも何ともないってことなんです。だから「これ面白い!」って思うものって、もしかして人に教わる中では見つからないかもしれない。
西谷
「面白いもの」って見つけるまでがみんな大変って言いますよね。私も「それをどうやって見つけるの?」って聞かれますが、ただ生きてきた中の「点」と「点」を結んだけで…(笑)莉沙さんも自分を表現するってなった時に自然と「やってみたい」が見つかったんですよね?
栗山
じゃあ「気にくわない×気にくわない×気にくわない」が、オリジナルになったんだ。
栗山
「気にくわないものたち」の欠点をどかしてくっつけたものが「気に入る」になったという。それが日本にはなくて、技術を学べて大会があって実力を伸ばせる場所がただイギリスだった、だからイギリスに行っただけ。それを見つけたタイミングが私は人よりちょっと早かった。それが人生の中でいちばんラッキーだったことですね。もちろん40代50代でも模索から「これだ!」ってなるタイミングはあると思うんですけど。
日本で大学に行かずすぐイギリスにいって場数を踏んで4年後、日本で大学を卒業した同世代の皆と話してても、もう話がまるで違うなと。当時は怖いもの知らずで親も元気だったし、自分に時間をかけられるタイミングだったので、それと「やりたいことが見つかった」というタイミングが合ったのはよかったと思います。
Lisa’s Cake Market代表の栗山莉沙さん

「自分で見つけなさい」の教え。自分の意見を持つこと。

栗山
(イギリスの)大学にはいちおう教科書があって、例えば砂糖でバラを作るやり方やシェルのきれいな絞り方とかあるんですけど、その工程を5つくらい教えてもらったらあとは「それを使った作品を各自デザインから考えてやりなさい。何ヶ月後までに仕上げなさい」。で、その中で素晴らしい作品は大会に出品してあげる。毎回そういう授業というか、訓練の連続でした。
西谷
それは日本とイギリスの違い?
栗山
大きく違いますね。日本ではそんな教え方する学校はない。日本の専門学校はレシピ渡されて、ガトーショコラ作りましょ、プリン作りましょ、です。もちろんイギリスにもケーキのベースを作るような授業はありました。バラの作り方も教えてもらうけれど、翌日は自分で花屋でバラを買ってきて、そのバラの解体作業から始まるんです。花びらが何枚で構成されてるとか、おしべとめしべの形とか。だから前日に教わった作り方、何も関係ないじゃんって(笑)
「自分で作り方をディスカバーしなさい」なんですね。まずはリアルなバラを作るのは誰かって競う。そのパーツができたら、それを使って最終的にどんな作品を仕上げるのかっていうのを2~3週間単位でどんどんやらせていく。だから家に帰らず図書館でデザインを考えるのと作品づくりをずーっとやってた大学時代だったんです。
この教育の欠点はですね…まったくビジネスにならない(笑)手ばっかりかけちゃう。売り物にしたらどんだけ高いケーキになるの?と。時間も上代も関係なくやってるから、仕事にした時その技術がまったく使えなかったですけど(笑)
西谷
でもまず自分で満足ゆく作品ができなかったら、人にそれを提供するに至らないですよね。
栗山
そうです。だから「まず表現しなさい」と教わった。
西谷
表現が自分の中で満足いく形になって、コップの中の自己満足があふれて初めてそれを人に「どうぞ」となって、次にそれを「喜んでもらえるか」だから。「まあこれくらいでいいかな」ですまないのがプロ根性というか「手に職」の面白さだと思う。そこにどれだけの愛情がこもってるか…いや、こめないといけない。
栗山
そうなんですよ。まず空想から形にするという難しさ。それを満足いく形まで持っていくという訓練。日本だと美大生がそういう授業の受け方をしているかもしれないけど、日本の製菓学校ではまだ無いと思うんです。パティシエってお皿に絵を描いたりの美術的要素って必要だと思うので、そこを伸ばす教え方をすれば日本の表現力ってもっと高くなると思うんですよ。
西谷
いま小学校とかの教育が変わってきていて。「発想して、自分の考えをまとめて、プレゼンで表現する」になってきてるんですね。でもそれを教えてる先生自身は「これがいいからやりなさい」という教育を受けてきている。私自身もそうだけど、机に座って教科書読んで「これが正しい」って教えてもらう教育。
小四の時、社会科の授業参観で母親が見に来てくれて。頑張って手を挙げたら担任の先生が私をあてたんです。手を挙げてるから当たり前ですけど(笑)でもまんまと答えを間違えたんですね。
間違ったことを発言するのはいけないことだと思っていたので、めちゃくちゃ恥ずかしかった。答えは合ってるべきもので、それを分かった人だけが発表しなさいという空気があったじゃないですか。他の子も「わあ…西谷違ってる」みたいになって。でも先生はそこで私を賞賛してくれたんですよ。「まず自分の考えを持っていて、それを皆の前で言うってことが素晴らしい」って。小学校の授業参観でですよ?それで私のスイッチは「ピッ!」って変わったんです(笑)
栗山
「こわくない!!」って。
西谷
そう。「間違ったとしても、自分がこう思ったっていうのがあればいいんだ!」って初めて切り替わった。そうしたらもう怖いもんナシじゃないですか(笑)「自分の意見を言っていい」ってなるの、本当はそういうきっかけさえあればいいんですよね。
いまスタッフ教育しててもなかなかそうはならない。「まず思ってることを発言して」と言っても、それが間違ってるか間違ってないかで自分の中でフタをしちゃう。それやっちゃうと自分の思ってることは言えなくなって、表現体現につながっていかないんですよね。
株式会社ペディキュール代表西谷裕子

日本での挫折。そして転機。

―――イギリスでそういう教育を受けた後は?
栗山
いったん帰国しました。シュガークラフトの需要が全くない日本に帰ってきたら「一体何しにイギリスに行ったんだろう」って苦しい時代が2、3年続きまして…。
―――シュガークラフトの技術を学んだのだから、帰国したらそれで食べていこうと?
栗山
そうなんです。実際にロンドンのヒルトンホテルでその技術を買われてパティシエとして働いていたし。
で、ビザの事情があって帰国して大阪のホテルで働いたら、全く違う考え方と世界にすごくショックを受けました。その現場ではあまり長く働けなかった。自分の表現が全くできないことにストレスがすごくて。それで新幹線の売り子やったりバーテンダーやったりした時期がありました。人生のいちばんの挫折、苦しい時期でしたね。
東京の実家に「帰りたい」と言ったら「帰ってくるな」って言われました(笑)大阪でもっと頑張れと。もう1年やったらロンドン側がもう一度呼び戻せるからって言われたんですけど耐えられなかった。
―――日本のホテルでは、自分の技術を活かす場所がなかった?
栗山
技術を活かす場所がないし、大きな声ではいえないけど14時間労働くらいで…。ケーキを出すけど、ホテルなのでどんな反響で食べられたか全く分からずにバンバン捨てられて…というのを毎日やられると、どんどん心がすさんでいくんですね。
今まではアーティストとして、作ったものを賞賛されて「わぁ素敵!」というので生きてきたから…。基礎は学びましたけど、毎日同じケーキを作るということに何の面白みも感じなかった。
自分が表現したものをお客様に直接喜んでもらえるなら、パティシエじゃなくてむしろカフェでいい!って思って、バーテンカフェみたいなところで皿盛りしたり。もうやらせてくれるなら給料なんて度外視でいい!って働いて。
その後ようやく帰京した時に転機がありました。カップケーキなどのデコレーションをする会社が東京で立ち上がっていて、そこでリードトレーナーとして、ケーキをデコレーションする技術を日本中に広めることができたので、また大きく人生が変わっていった。
西谷
技術を持ってるだけじゃなく、発揮できる場ってすごく大切。私は発揮できる場がないから自分で作ったんですけど、職人の持ってる最大限の魅力をどういう場所に出すか。場所づくりにもまたスペシャリティがいるわけで、そこにうまく出会えるかがすごく大事ですね。
栗山
発揮できる場所がないとなった時にすぐお店をつくることができた裕子さんは本当にすごいと思います。私は自信がなくなってボロボロになっても、まず日々を生き延びる生活費が稼げるかどうか…というのがあったし。
西谷
私も場所がないって思った時は落ち込んだし、帰国してしばらく整体院に勤めましたよ。そこで一生懸命働いたけど、ある日先生に「裕子ちゃん最近元気よく働いてないね。掃除、手を抜いてない?」って言われて。手を抜いてるも何も「なぜ私以外の人は誰も掃除しないんだ?」と。私は掃除するために入ったわけじゃなくお客様の来る空間を良くしようと思ってやってるのに、周りは誰も掃除をしない(笑)一応ペーペーだからやるけど、その徒弟制度みたいなものがすごく許せなくて。
私にとっては掃除も表現の一部で「お客様に喜んでもらうためにベッドシーツはキレイな方がいい」という話。でも周りはなぜそう思わないんだ?と思ったとき、それを議論してる時間ももったいないなと。
栗山
しなくていい苦労はしなくていいですよね。
―――ホテルの厨房も日本だと完全な上下関係ですよね。
栗山
そこもびっくりでした。面白いもの持ってる人を「つまらない」ってもう…ねじ伏せますからね。「俺がチーフでトップだから、お前はやるべきことを時間内にやればいい」と。そこで耐えて5年くらいやったら初めて自分の個性や独創性がちょっぴり出せるくらいかな。でもその頃には独創性なんて折られてますよね。そんな色に染められた5年後にいったい何が生まれるの?って。
西谷
組織の中でどうやったら独創性を活かしてあげられるかは難しい。だから「早く独立した方がいい」と私はよく言ってます。トップが独創性で生きてきてるからスタッフにもさらに独創性を求めたいんだけど…難しいですよね。みんなが莉沙さんタイプでも困っちゃうだろうし。
栗山
そうなんです。だから日本の製菓学校ではタイムスケジュールを1から10まで挙げてその通り動けばつつがなく1日が終わる、というのが心地いいんだと思う。それさえやれば少しずつ上がっていけるシステム。私はそこにいたらまた「あれもやだ、これもやだ」が始まっちゃう(笑)
西谷
小さい頃から「あれもやだ、これもやだ」が許される家だったんですか?
栗山
そうですね、基本的に「ないものは自分で作れ」という教え方でしたね。私の記憶は小学校の図画工作で木で何か作りなさいと言われた時です。父親がいつも新聞をラックにぎゅうぎゅう詰めにしてるのが気になってて「自動的に伸びる新聞ラックがあったらいいのに」って思って作ったんですね。誰でも考えられる物かもしれないけど、私の中では「ないものを作る」の始まりで。自分の想像したものが形になって父に喜んでもらえるかなっていう。まあ全然使ってくれなかったんですけど(笑)
わがまま娘だったとは思うんですけど、「自分で不満に思うなら、自分でそれを解決しなさい」でしたね。
―――ケーキデコレーションの会社とはどうやって出会ったんですか?
栗山
ようやく親に「東京に戻ってきていいよ」と言われて実家に戻ったんですけど、自分の部屋もないからリビングの端に荷物置いて居心地悪かった(笑)それで仕事を探してたら、株式会社アントレックスというところが、ウィルトンというアメリカのケーキデコレーションの材料を売る総代理店をやっていて。口金とか色粉とかベイクウェアとかカップケーキの型…その器具を売るためにケーキ教室を作るというビジネス展開をしてる会社だったんです。
アメリカから見たこともない使い方も分からないものが日本に入ってきて、どう先生を集めてその器具をどう使えばいいか分からない状態の時に私が入ったので「器具の使い方は全部分かります。まずは生徒育成しましょう、その生徒からインストラクターに育ててクラスを作りましょう」というのを全国で16店舗くらい作らせてもらいました。ずっとやりたかっことに近かったので、干からびてる魚に水をもらったみたいな、もう楽しくて楽しくて水の中をビチャビチャ動き回ってて(笑)

ただ結婚出産など色々あって辞めて、その後独立することになったんです。 働きすぎて体調を崩したのと、教え続けるのではなくまた現場に戻って、イギリス時代のように自分しか思いつかない作品を作りたかった。ウィルトンっていうネームバリューの栗山ではなく、自分ひとりの作品を作っていきたいと思ったんです。ウィルトンとしてケーキをオーダーされてるけど作ってるのは私だし。「なぜ私の名前出しちゃいけないのよ」みたいな(笑)
西谷
本当に組織向きじゃない…クリエイターだ!(笑)
Lisa’s Cake Market代表の栗山莉沙と株式会社ペディキュール代表西谷裕子の対談

栗山さんの行動力と自由度に激しく共感したり驚いたりの西谷さん。お二人の共通点は「思い立ったらすぐ動く」「好きなものを貫く」姿勢だなあと思いました。この後は栗山さんが自分のお店を出してからのお話と、お二人の「人を雇い組織を運営してゆくこと」についての考え方など。後篇もかなり濃いお話なので、次回をどうぞお楽しみに!

(ライター・近藤あゆみ)

<プロフィール>

栗山莉沙

チーフケーキデコレーター。
19歳の時に渡英しBrooklandsCollegeへ入学。在学中の3年間にケーキデコレーションを学び、多くの大会に作品を出展する。4年に1度のWorld 0f Sugar世界大会では日本人初20歳という最年少でGoldを2冠受賞する。卒業後London Park Lane Hilton Hotelでパティシエとして勤務。数々のコンテスト受賞歴を持つ。帰国後は大阪のホテル勤務を経てWiltonデコレーションリードトレーナーとして活躍した後、2013年9月、横須賀に自身の店「Lisa’s Cake Market 」をオープン。ケーキ制作のみならず、その高いデコレーション技術は、法人向け展示会・パーティースイーツ・ウェディングケーキなどで人気を博している。一児の母。

[HP] http://www.weddingcakejapan.com/index.html
[Instagram] https://www.instagram.com/lisascakemarket/
[Facebook] https://www.facebook.com/Lisas-Cake-Market-436553706464839/

<プロフィール>

西谷裕子

大学時代のオランダ留学をきっかけにドイツ式フットケア「フスフレーゲ」や英国式リフレクソロジーなどの資格を取得。帰国後26歳で自身のフットケアサロンをオープンし株式会社ペディキュール代表取締役となる。独自の高い技術とこだわりは他のフットケアとは一線を画す。現在はドイツ式フットケアサロン「フットブルー」3店舗を経営、2018年で創業20周年を迎えた。その他にも「足から健康を考える」「女性の自立」をテーマに精力的に活動。二児の母。

[HP] https://www.footblue.co.jp/
[Instagram] https://www.instagram.com/footblue.official/
[Facebook] https://www.facebook.com/Footblue.footcare.salon/

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